「もう手を加えなくていい家だったら、つまんない」— さやなつさんのお部屋

MAL. people | No.01 | インタビュー

「もう手を加えなくていい家だったら、つまんない」

― さやなつさんのお部屋

畳も押し入れも、最初は「やだな」だった。
手を入れるうちに変わっていった部屋の話。

植物の部屋。畳にパイン材のタンスと木の棚

聞き手・文 MAL. 写真 さやなつ 取材 2026年9月

窓辺の植物は青々とし、襖を外した押し入れは、今は作業用机として使われている。

Instagramで見るその部屋は、どこかしらに手が入っている。埼玉県の、築三十三年の賃貸住宅。

手を入れられる家に住むということ、その意味は、話を聞いていくうちに、少しずつ形を変えていった。

リビング。窓辺に植物、奥に襖を外した和室が見える

さやなつさん

埼玉県、築三十三年の賃貸に子どもふたりと三人で暮らす。平日はエクステリア(庭づくり)の会社で、図面の補助や施工管理を担当。未経験から始めて六年目。週に一度は、浅草の植物店「カトーエンゲー東京」(@kato_engei_tokyo)にも立つ。

Instagram: @sakunoki_home_green

01最初に買ったのは、今もリビングにあるテーブル

部屋づくりの始まりを聞くと、話は二十歳のショッピングモールに戻っていった。

「専門学校を卒業してから、しばらくフリーターだったんです。ショッピングモールでバイトをしていて、歩けばいろんなお店があるじゃないですか。そういうところから外に出るようになって、好きなお店ができていったんです」

「二十歳くらいですかね。自分でお金を稼いで、ちょっと頑張ったら大きな買い物もできるくらいになって、最初に買ったのが、今インスタにも載せている、リビングの真ん中のテーブルです」

「一回実家に置いて、十年くらい使っていなかったんですけど、この家に引っ越してきてしばらくしてから、戻ってきたみたいな感じです」

―― 好みも、その十年で変わっていったんですか。

「最初はアジアンの雑貨のお店によく行っていた時期があって、アメリカンダイナーみたいなものも好きでした。名残としては、どこかしらに残っていたりします」

―― インテリアは、どこかで勉強されたんですか。

「全然していないですね。雑貨店で働いていた時に、ディスプレイの並べ方は教わりましたけど、それも子どもができて、一年半くらいしか働いていないんです」

「歴史のある名品の椅子とか、そういうものは全然わからなくて。あくまでも自分の目にとまったものを選びながら、という感じです」

十年しまわれて、また部屋の真ん中に戻ってきたテーブル。選び直された、と言ってもいいのかもしれない。

リビングの真ん中にあるテーブル

02祖父は、団地の壁を自分で取り払っていた

団地の話になると、時間はさらに遡った。

―― Instagramのプロフィールにもある「団地」は、さやなつさんにとってどういうものなんですか。

「うちの祖父母の家が、団地なんです。私が子どもの頃から、三十年以上住んでいる家で」

「子どもの時は何の気なしで、何も感じていなかったんですけど。団地って六畳くらいの部屋が仕切られていて、一つ一つは狭いんですけど、その間の壁を取っ払って、今で言うところのリノベーションを自分でしていたんですよね」

「祖父が、ちょっとしたリフォームを手伝うような小さな会社を営んでいて、自分で何でもできてしまうような人だったんです」

―― 今見ると、どう映りますか。

「やっぱり昔なので、今に比べると技術的には、よく見ると『この冷たいペンキの壁はどうなの』というところもあるんです。でも、そういうものが逆に、今となってはぬくもりみたいに残っているんですよね」

「いいなと思う思い出を、思い出させてくれたな、という感じがします」

その団地のことは、Instagramにも書かれている。

Instagramの投稿より
わたしの一番好きな団地は 大好きな祖父と祖母の家 壁や押し入れを解体し たくさんリフォームを加えた家 私が今最も憧れている団地リノベ 祖父がリノベーションという言葉を 知っているかも分からないけど 壁も塗装 全部ペンキで塗っちゃったのよと言う祖母 ホームセンターに昔からありそうなL字ブラケット 祖母にとってこれはおしゃれとは思わないだろうけど 男が何も考えずに選んだという感じの無骨さが好き 並んだカゴの柔らかさがミスマッチでそれも好き このノウハウを生きてるうちに全て教わりたかったなあ とつくづく思うし なんなら建装屋を引き継ぎたかったくらい 小さい団地をひと回りして 来るたびに愛着が湧く 冷たいペンキ壁は祖父の思い出

―― ご自身でも、いつかやってみたいと。

「ゆくゆくは——子どもたちが巣立った時なのかはわからないですけど——家を購入して、自分でそういうことをやってみることには、すごく憧れがあります」

「古民家に住みたい、というのともまた違うんですよね。団地のこじんまり感が、私は好きなんです」

「ただ、今の暮らしを気に入っているから、日常をすぐに変えることはないと思っています。憧れを持ちつつ、という感じです」

03畳も押し入れも、最初は「やだな」だった

―― 今のお部屋は、どうやって決められたんですか。

「何も考えないで選んでいるんですよね。それで、たまたま畳があって、最初は『やだな』と思ったんですよ。押し入れがある家に住んだのも初めてです」

「畳はそんなに好きじゃなかったんですけど、自分の組み合わせる家具やテイストで、この雰囲気が合うということがわかったんです」

「襖もやっぱり、ちょっと気に入らないというのがあって。じゃあ外してしまおう、と。インスタで、机として活用している人たちの投稿を見て、自分もやってみようかなと思ったんです」

「そういう工夫をしているうちに、これはこれで楽しいな、となっていったみたいな感じですね」

襖を外して作業机にした押し入れ

―― 築古ならではの、難しさもありそうですが。

「『この壁の変なバーは何なんだ』というものがあったりして。それをどうしたらうまく隠せるか、部屋を広く見せられるか、みたいなことを考えさせられるんですよね」

「自分でこういう木材を買って、こういうアイテムがあるんだと知って。賃貸でも原状回復できるような隠し方とか。それが、DIYに挑戦するようになったきっかけです」

「押し入れも、収納としてはすごく広いんだけど、奥行きがありすぎて。どうしたらうまく使えるか、面白くできるかな、と考えるのが、すごく楽しい。そういうところが、築古のいいところなのかな」

―― インテリア以外にも、暮らし全体に意識が向いている印象があります。

「そう見られるみたいですよね。何を家に置くかというところには、こだわりが強いんですけど……」

「私、すごい家事が嫌いなんですよ。もともと部屋を散らかしちゃうタイプで、掃除もできなくて」

「今の暮らしになってから、基本的に全部自分で決めて、自分でやらなきゃいけないので、掃除とかも頑張るようになったんですけど。それを維持するために、インスタもやっているようなところもあります」

「ただ、ミニマリストみたいに、物を持たないで掃除しやすくとか、そういうのは私はやっぱりできないんです。結構、欲張りなので。だから、いかに楽するかを自分の中で考えながらやっています。基本、背伸びをしない、みたいな」

―― 最近の工夫で、これは良かったなというものは。

「押し入れをデスクというか、作業台のようにしていて、上の段は自分の文房具や道具、本棚にしているんですけど、下半分は子どもの服の収納スペースにしています」

「その押し入れのすぐ隣に、ベランダの窓があるので、今までは全部畳んで引き出しにしまっていたんですけど、突っ張り棒を落ちないように工夫して取り付けて、全部ハンガーにかけるだけにしたんですよ」

「それがすごく楽で。これは本当にやってよかったと思っています。取り込んで、そのままかけられるし、選ぶ時も選びやすくて」

「洋服屋さんみたいというか、すごく生活感はあると思うんですけど、私は生活感があるのも好きなので。整いすぎていない感じが好きだし、すごく楽になったというのがお気に入りです」

押し入れの作業台と、窓際にハンガーで掛けた子どもの服

04便利なところは、ちょっと嫌かもしれない

―― もし今、すごく便利なところに引っ越せと言われたら。

「嫌かもしれないです(笑)」

「多分、中古の、それこそ築三十年越えの——かっこよく言うと、今はヴィンテージマンションとか言われますけど——そういうところが好きだったりします。もう手を加えなくていいようなところだったら、多分つまんないと思っちゃうんですよね」

「ここの壁を外してしまって、洗面台を変えてみようとか、そういうことをやってみたいです」

―― 「不便を楽しむ」という感覚は、最初からお持ちでしたか。

「どっちかというと、後天的だと思います」

不便な家だから仕方なく工夫している、という順番ではないらしい。

できあがった家で暮らす心地よさもある。そのうえで、余白を残した家で過ごすこの人の時間は、豊かに見えた。

05気づいたら、部屋ごとに色が分かれていた

話題は、家全体の話から、ものの話へ。

―― 好きだなと思って迎えるものに、共通点はありますか。

「共通点って、何なんですかね。好きなものを、これとこれは相性が悪いかな、とか、そんなに考えないで迎えてしまっているんです」

「ただ、気づいたら、うちは部屋がすごく暖色でまとまっていたりします。いっぱい買うから、結果的にまとまっているという感じなのかな」

―― 部屋ごとに、雰囲気が違いますよね。

「リビングは、オレンジとか黄色とかが多くて。子どもと一緒にハマったパンのキャラクターのものもあるんだけど、それも暖色だから馴染んでいます」

「植物の部屋は、植物以外の色味をそんなに入れていなくて。緑と、ベースは畳があるから、パイン材のタンスだったり、棚板が木製だったり。古いものは、特にこちらに集まっています」

「キッチンは、電気のシェードが緑だったり、コードが赤だったり。ポイントポイントで明るい色味を入れて、楽しくなるような感じにしています……なんか、話してて気づきました(笑)」

暖色の雑貨が並ぶリビング

―― 黄色は、昔からお好きなんですか。

「ここ数年、ずっと黄色が好きですね。服も、トートバッグも、エプロンも。好きなんだなと自分で意識して、インテリアでも着るものでも、これいいなとなってしまう時はよくあります」

―― それは、直感的なものですか。

「直感的なんですかね。なんか、無機質があんまり好きじゃないんだと思います」

「暖色系とか、アースカラーとか、ぬくもりを感じるような色味は好きで。紫は好きじゃないです。黒い服もそんなに持っていなかったんですけど、最近になって、ちょっと良さはわかってきました」

「黄色って、あんまり着ている人がいないですよね。人と被らないのも、またいいところの一つみたいな」

―― 逆に、素敵だと思うけれど自分の部屋には入れない、というものはありますか。

「量産されているインテリアグッズとか。ああいうものって結局、可愛いと話題になってしまうから、みんなが持っているみたいな感じになってしまって。買うとしたら、使い方を変えたりします」

「服も、古着の方が好きですね。鎌倉のLONG TRACK FOODSというデリのお店が、オリジナルシャツやキャップをたまに出すんですけど、その時期限りの商品とか。持っている人が少ないんだろうな、という感じです」

「みんなに、こだわりが強いって言われますね」

―― 参考にされているものはありますか。

「いわゆる、シティボーイに憧れていて、POPEYEのインテリアの特集とかはよくみますね。韓国インテリアとはまた違う、男の人ができそうなポップな感じが好みです。」

「あとは本当に、インスタでいろんな人の部屋を見ていますね。意外と、自分と似ているなというところが、そんなになくて。自分にはできない考えを持っている人たちが、同じように部屋が好きでやっているんだろうなと思うと、いくらでも見られてしまうんです」

「名品の椅子とかソファーとか、そういうものが載っているものというよりは、その人がここに住んでいる、というのが見えるものの方が、やっぱり興味を惹かれるのかな」

量産されたものは避け、あまり人が着ない色を選ぶ。その一つひとつに、みんなが良いと言うものではなく、自分がいいと思うものを、そのつど確かめている手つきが見える。

06手放せないもの:植物

―― これだけは手放せない、というものを一つ挙げるとしたら。

「それが、なんだろうと考えたんですけどね。わからないんですよね。結局、引っ越すとなった時に、全部手放さないで持っていってしまうと思うんですよね」

「強いて言えば、植物は絶対ないとダメだなとは思います」

―― 植物は、他のものとは違いますか。

「雑貨だったり家具だったりも、使っていく経年変化を楽しめる。いつまでもピカピカにしておきたい、という発想ではなくて、傷になってどんどん増えてもいいと思っているし。味みたいなものを楽しむのが、雑貨とか家具だったりします」

「植物も、どちらかというとそういうところがあるかなと思うんですよね。大きく育ってきて、緑だった幹が木質化して、だんだん強くなっていったりとか。今までは小さかった葉っぱの切り込みが、すごく深くなったりとか」

「古いものだったら、傷だったり、エージングされた感じとか、前の持ち主が使っていてついたんだろう跡とか。そういうものに、萌えポイントみたいなものがあるんです。植物で言うと、新芽が出てくる瞬間とか」

「風が吹いてなびく瞬間も好きだし、朝起きて目が覚めた時に、グリーンが目に入るのも、やっぱり癒されるし。命あるものだから、より愛でなきゃいけないかなと思います」

モンステラの新芽

―― 不便を楽しむことと、傷を味だと思うことと、小さな変化に萌えポイントを見つけること。全部、同じ話のような気がします。

「そうかもしれないです。細かいところを、想像してみたりすることが共通しているのかな、と思います」

―― 数も種類も、かなりありますよね。

「気づいたらこうなってしまった、という感じなんですけど、もう今、新しくは買わないと決めているんです」

―― お店にも立たれているのに。

「自分のキャパの中でオーバーなので。世話をしてあげられなくなってしまいますから」

「今ある数だけでも、毎年本当に姿が変わる。それを楽しむのが、本来の植物の楽しみ方だと思うので。もうこれ以上増やさずに、今いる子をどう綺麗に育てるかというところに、今は切り替えました。一つ一つ、大事に育てようと思っています」

手をかけられる範囲を、自分で決めている。その決め方からは、無理をしないという、この人なりの心地よさの確かめ方が伝わってくる。

07これからやってみたいこと

―― もっと自由度が高いところに住めたら、まず何をしますか。

「床を張ったりとか、してみたいですね!」

「今はもう、引っ越した時に家具を先に入れてしまっているから、それをわざわざどかしてやるというのは、ただただ面倒くさくて。ラグを敷いたりしていて、床の見える面積もそんなにないから、必要性もあまりなくて」

「なので、もし広くなったり、何かすることがあったら、そういうところから一から考えたいなと思います。次のステージがあったら、そこでやれればいいかなって…あ、あと、おじいちゃんみたいに壁にペンキ塗ってみたいです(笑)」

便利なものには、手を出す余地がない。だとしたら不便というのは、まだ自分の出番が残っている、ということなのだろう。

工夫してうまくいった達成感にも、もちろん魅力はある。ただ、さやなつさんが面白がっているのは、ここをどうしようかと考えている、その時間のほうのように感じた。

好きなものに囲まれた部屋は、買い集めてもつくれる。それも楽しい。ただこの部屋にあったのは、好きになるまでの時間のほうだった。

その時間の楽しみ方を、少し分けてもらった気がする。

Instagram @sakunoki_home_green

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